春の上河内へ
板倉勝宣
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)岩魚留《いわなどめ》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)金※[#「木+累」、第3水準1−86−7]《かねかんじき》
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大正八年三月二十一日。信濃鉄道にゆられながら、重いリュックサックを背負ったまま腰をかけて、顎の下にアルペンストックをかって、反対側の窓の中に刻々に移って行く真白な雪の山々を眺めていると、雪の山の不可抗な吸引力は、ジットしていられないほど強くなった。しかし夜行できた寝不足の身体は、今日山に入ることを拒んでいる。はやる心を抑えつつ穂高駅に下車した。迎えにきてくれた寺島寅吉老人と春にしては暖かすぎる田圃道を牧に向かった。常念、蝶ガ岳が雪を浴びた下に、平たくこんもり茂った浅川山を背後に、牧の愛らしい村が点々と見える。スキーを肩に、リュックサックの重みを感じながら汗の流れる身体を寺島方に着いた。水車がめぐっている。昼飯をすましてから、案内の永田小十郎がきたので、万事相談の上明朝出
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