リと黒い。音もない。風もない。いうことも無ければ考えることもない。案内が「美しい」というのが聞えた。はい松を焚いて、パンを噛った。いま登ってきた方には浅間、小浅間や、真白な戸隠が見えた。静かに話をしながらパンを火にあぶっては食った。スキーから雪がとけて岩の上に流れている。尾根はすべて雪がない。スキーで中房へ越えるのは駄目だと思った。再びスキーをつけて、槍ガ岳を右に見て一ノ俣に降る。大きなボーゲンを画いて木の間を縫いながら十分ばかりで降りた。雪は一丈余もあろう。河はほとんど埋っている。針葉樹の下を通って行くとハラハラと雪が木から落ちてくる。中山の登りは、スキーをぬいで※[#「木+累」、第3水準1−86−7]《かんじき》の跡を登った。上に着いて休むと、一時に汗が引込んで、風が木々を渡って行った。中山の下りは急で、雪は実に好い。プルツファシュネーに近い。スキーから雪煙が立って、音のない谷にシューという快い音をたてて風をきって下りた。初めはステムボーゲンを猛烈にやらねばならなかったが、途中から直滑降にうつって、木が後ろに飛んで行くように見えた。二ノ俣の池で焚火をして飯を食った。水を探すに骨を折
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