がおのずと対照して思われた。すると、そのときだった。ふと夜空に流星がひとつすっと[#「すっと」に傍点]尾をひきながら強く瞬間的にきらめいて、なにかひとつの啓示を与えたかのように流れ消えた。万有の生起壊滅の理。突然そのときひとりの友の声が沈黙の重みをうちこわして、おおらかに放たれた。彼れはそのほのみえる顔に、溢《あふ》るるような悦びの色をたたえて言ったのだった。
「おい、俺たちはいつかは死んじまうんだろう、だけれど山だってまたいつかはなくなっちまうんじゃあないか。」

[#ここから1字下げ]
 このひとつの叙事文はこの通りのままの事実がそのままにあったのをそのままに書き表わしたのではないという事はお断りしなければならない。だけれどこの中に叙せられた山の上での経験についても、またこの中に織り込まれた会話体の部分についても、それらのものは皆実際にあったことである。ただそれらはそれぞれの時と場所を異にしていたという事にすぎない。それでここでは記述のうえの都合からそれを同じ時と場所に於て起った事象の如くに取扱かったのである。
 私らの仲間はいつも集る度ごとに「山」について語った。それはいろいろの
前へ 次へ
全17ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大島 亮吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング