涸沢の岩小屋のある夜のこと
大島亮吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)涸沢《からさわ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二千五百|米突《メートル》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)岩っかけ[#「岩っかけ」に傍点]
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 自分たちの仲間では、この涸沢《からさわ》の岩小屋《いわこや》が大好きだった。こんなに高くて気持のいい場所は、あんまりほかにはないようだ。大きな上の平らな岩の下を少しばかり掘って、前に岩っかけ[#「岩っかけ」に傍点]を積み重ねて囲《かこ》んだだけの岩穴で、それには少しもわざわざ[#「わざわざ」に傍点]やったという細工の痕《あと》がないのがなにより自然で、岩小屋の名前とあっていて気持がいい。そのぐるりは、まあ日本ではいちばんすごく、そしていい岩山だし、高さも二千五百|米突《メートル》以上はある。これほど高くて、自由で、感じのいい泊り場所はめったにない。人臭くないのがなによりだ。穴のなかに敷いてある偃松《はいまつ》の枯葉の上に横になって岩の庇《ひさし》の間から前穂高《まえほたか》の頂や屏風岩
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