《びょうぶいわ》のグラートとカールの大きな雪面とを眺めることが出来る。そのかわりいつもしゃがんでいるか、横になっていなければならないほどに内部は低い。景色と言っては、なにしろカールの底だけに、ぐるりの岩山の頂上と、カールの岩壁と、それに前に涸沢の谷の落ちてゆくのが見えるだけで、梓川の谷も見えない。そしてそれにここにはあんまりくるものもいない。実にしずかだ。そこがいいんだ。そこが好きなんだ。米味噌そのほか甘いものとか、飲物のすこしも背負い込んで、ここへやって来て四、五日お釜を据えると、まったくのびのび[#「のびのび」に傍点]して、はじめて山のにおいのするとこへ、きたような気がする。
天気のいいときは、朝飯を食ったらすぐとザイルでも肩にひっかけて、まわりの好き勝手な岩壁にかじりつきに行ったり、またはちょっとした名もないような Nebengipfel や、岩壁の頭《あたま》に登ったりして、じみに Gipfelrast を味《あじわ》ってきたり、あるいはシュタインマンを積みに小さなグラートツァッケに登るのも面白い。そうしてくたびれたら、岩小屋へ下りて来て、その小屋の屋根になっている大きな岩の
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