わなかった。話しはまたとぎれてしまった。各々の想いはまた各々の心のなかをひとりで歩まねばならなかった。
自分自身の心胸にもそのときはいろいろのことがおもい浮んだ。暗い、後ろめたい思想が自分を悩まし、ある大きな圧力が自分の心を一杯にした。そしてついに山は自分にとってひとつの謎ぶかい吸引力であり、山での死はおそらくその来るときは自分の満足して受けいれらるべき運命のみちびきであるとおもった。そしてそのとき自分のたましいのウンタートーンとして青春のかがやかなほほえみと元気のあるレーベンスグラウベとが心にひろがってきた。死ということをふかく考えても、それを強く感じても、なお青春のかがやかしさはその暗さを蔽うてしまう。わけて自分たちにとっては、山での死は決して願うべく、望ましき結果ではなけれ、その来るときは満足して受けいれらるべき悔いのないプレデスティナツィオーンであるからだ。そしてそのとき夜はますます自分たちの頭上に澄みわたっていた。かずかずの星辰は自分たちにある大きな永遠というものを示唆するかのように、強く、燦《あき》らかに光っていた。ひとつの人間のイデーとひとりの人間の存在というようなもの
前へ
次へ
全17ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大島 亮吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング