やしないし、趣味なんかでもないや、なんだかわからないが、そんなものよりもっと自分にピッタリしたもんだ。」
新しいひとりが暗いなかで、すぐその前の言葉を受けて、強く言い放った。沈黙が暫くつづいた。すると、
「とにかく、人間が死ぬっていうことを考えのうちに入れてやっていることには、すくなくともじょうだんごと[#「じょうだんごと」に傍点]はあんまりはいっていないからね。…………」と多くを言わずに、あとの言葉をのみこんでしまったように言ったのは、その死んだ友とそのとき行をともにした自分たちの仲間のひとりだった。彼《か》れこそは自分たちの仲間で最も異常な経験をそのときにしたのだ。だから、山での災禍ということについては最も深い信念をば、彼れは特に自分たちに比してもっているわけだ。けれど彼れはそれを自分たちに語りはしなかった。彼れのおもい秘めたような心を自分たちへ敢て開こうとはしなかった。けれど彼れはただこういうことだけは言った。「俺はそのとき以来一層山は自分からはなしがたいものとなってしまった。立山は以前から好きな山だったが、あの時からはなお一層好きになってしまった。」そしてそれ以上はなんにも言
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