前を経《へ》、長崎に留連し、天草洋を航して島原に上陸し、熊本に至り、南下して薩摩に入り、大隅より再び肥後に還《かへ》り、更に豊後に行き、筑後河を下り、豊前より再び赤間関に至り、其所にて新年を迎へしが如し。蓋し其足迹の達せざる所唯日向一州あるのみ。九州の名山大川所謂温泉岳、高良山、阿蘇山、霧島山、耶馬渓《やばけい》、筑後河の類皆彼の詩中に入らざるはなし。彼は詩に於ても実際脈なり、其詠ずる所|尽《こと/″\》く取つて以て風土記に代ふべき也。吾人之を徳富蘇峰氏に聞く、其熊本を発する時の詩に大道平々砥不[#レ]如、熊城東去総青蕪、老杉夾[#レ]路無[#二]他樹[#一]、欠処時々見[#二]阿蘇[#一]と曰ふが如きは真に熊本市外の写真と謂つべしと。蘇峰氏は熊本県の人也、其言証とするに足る。蓋し彼と雖も時としては想像より搆造したる詩を作らざりしにはあらざりし。然も其実歴せし状況を見るがまゝに写し出すの伎倆に至つては日本詩人中彼を推して第一となさゞるを得ず。彼の詩は未だ嘗て実地を離るゝ能はざる也。彼は高き理想の中に住するの人に非ず。彼は唯只温情なる多血なる日本国民として日本国民なるが如く見る所を見し儘
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