先刻《さっき》、八時頃先方の家《うち》を出て、矢張《やっぱり》この隣の裏門から入ったが、何しろこんな月夜でもあるし、また平常《ふだん》皆が目表《めじるし》に竹の枝へ結付《むすびつ》けた白い紙片《かみきれ》を辿《たど》って、茶席の方へ来ようとすると、如何《どう》したのか、途中で道を失って、何時《いつ》まで経《た》っても出られない、何処《どこ》をどう歩いたものか、この二時間あまりというものは、草を分けたり蔓《つる》に絡《からま》ったりして、無我夢中で道を求めたが、益々《ますます》解らなくなるばかり、偶然《ふと》先方《むこう》に座敷の燈《あかり》が見えるから、その方へ行こうとすると、それがまた飛んでもない方に見えるので、如何《どう》しても方角が考えられない、ついぞ見た事のない、谿谷《たに》の崖の上などへ出たりするので、自分では確《たしか》に気は付いていたようだが、急《あせ》れば急《あせ》るほど解らなくなって、殆《ほと》んど当惑していると、突然先生の声がしたので、初めて安心しました、と息をはずましながら談《はな》して、顔の色も最早《もう》真蒼《まっさお》になっていたので、二人ながら大笑《おおわ
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