ので、これは屹度《きっと》、自分に早く帰らそうとしての事だと思っていたが、強《あなが》ち、そうばかりでもなかったらしい、何をいうにもこんな陰気な家で、例の薄暗い仏壇の前などを通る時には、私にもあまり好《い》い気持がしなかったが、何分《なにぶん》安値《やす》くもあるし、賑《にぎや》かでもあったので、ついつい其処《そこ》に居たのであった。
すると、秋の或《ある》月の夜であったが、私は書生一人|伴《つ》れて、共同墓地の傍《わき》に居る知己《ちき》の家を訪ねた、書生はすぐ私より先《さ》きに帰してしまったが、私が後《あと》からその家を辞したのは、かれこれ十一時近い頃であった、何分《なにぶん》月が佳《い》い晩なので、ステッキを手にしながら、ぶらぶら帰って来て、表門へ廻るのも、面倒だから、平常《ふだん》皆が出入《でいり》している、前述の隣屋敷の裏門から入って、竹藪を通抜《とおりぬ》けて、自分の家の庭へ出ようとした、四隣《あたり》は月の光で昼間のようだから、決して道を迷うはずはなかろうと、その竹薮へかかると、突然|行方《ゆくて》でガサガサと恰《あだか》も犬でも居るような音がした、一寸《ちょっと》私も
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