》の破《こわ》れた生垣から、隣屋敷の庭へ行けるのだ、ところが、この隣屋敷というのが頗《すこぶ》る妙で、屋敷といっても、最早《もう》家はないのだが、頽《くず》れて今にも仆《たお》れそうな便所が一つ残っている、それにうまく孟宗竹《もうそうちく》の太いのが、その屋根からぬっきり突貫《つきぬ》けて出ているので、その為《た》めに、それが仆《たお》れないで立っているのだ、その辺《あたり》は、その孟宗竹《もうそうちく》の藪のようになっているのだが、土の崩れかけた築山《つきやま》や、欠けて青苔《あおごけ》のついた石燈籠《いしどうろう》などは、未《いま》だに残っていて、以前は中々《なかなか》凝《こ》ったものらしく見える、が何分《なにぶん》にも、ここも同じく、人の手の入《はい》った様子がないので、草や蔓《つる》が伸放題《のびほうだい》、入って行くのも一寸《ちょっと》気味が悪《わ》るいほどであった。
 移って当座は、別に変った事もなかったが、その頃私は常に夜の帰りが遅いので、よく弟や老婆の云うのは、十二時過ぎた頃になると、門から玄関へ来て敷石の上を、カラコロと下駄の音がして人でも来たかのような音がすると云う
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