踵などについている符号を、文章の中に探した。そして、眉、口、唇などの言葉を一つ一つ覚えていった。
 が、そうした単語だけはわかっても、前後の文句は、彼らの乏しい力では一向に解しかねた。一句一章を、春の長き一日、考えあかしても、彷彿として明らめられないことがしばしばあった。四人が、二日の間考えぬいて、やっと解いたのは「眉トハ目ノ上ニ生ジタル毛ナリ」という一句だったりした。四人は、そのたわいもない文句に哄笑しながらも、銘々嬉し涙が目のうちに滲んでくるのを感ぜずにはおられなかった。
 眉から目と下って鼻のところへ来たときに、四人は、鼻とはフルヘッヘンドせしものなりという一句に、突き当ってしまっていた。
 むろん、完全な辞書はなかった。ただ、良沢が、長崎から持ち帰った小冊に、フルヘッヘンドの訳注があった。それは、「木の枝を断ちたるあと、フルヘッヘンドをなし、庭を掃除すれば、その塵土|聚《あつま》りて、フルヘッヘンドをなす」という文句だった。
 四人は、その訳注を、引き合しても、容易には解しかねた。
「フルヘッヘンド! フルヘッヘンド!」
 四人は、折々その言葉を口ずさみながら、巳の刻から申《さ
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