蘭学事始
菊池寛
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)巳刻《みのこく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)薄|菊石《あばた》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)珍※[#「酉+它」、第4水準2−90−34]
−−
一
杉田玄白が、新大橋の中邸を出て、本石町三丁目の長崎屋源右衛門方へ着いたのは、巳刻《みのこく》を少し回ったばかりだった。
が、顔馴染みの番頭に案内されて、通辞、西善三郎の部屋へ通って見ると、昨日と同じように、良沢はもうとっくに来たと見え、悠然と座り込んでいた。
玄白は、善三郎に挨拶を済すと、良沢の方を振り向きながら、
「お早う! 昨日は、失礼いたし申した」と、挨拶した。
が、良沢は、光沢のいい総髪の頭を軽く下げただけで、その白皙な、鼻の高い、薄|菊石《あばた》のある大きい顔をにこりともさせなかった。
玄白は、毎度のことだったが、ちょっと嫌な気がした。
彼は、中津侯の医官である前野良沢の名は、
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