ていた。

          五

 やがて、六人は打ち連れて、観臓の場所へ行った。
 刑場の一部に、蓆をもって粗末な仮小屋が設けられていた。手《しゅ》医師の何某《なにがし》が、三人の小吏と、二人の与力と一緒に待っていた。
 死体は、案のごとく、首だけは梟木の上にかけられている老婆のそれであった。老婆は青茶婆《あおちゃばば》といって、幾人となく貰い子を殺した大罪の女であった。若い時、艶名をうたわれたといわれるだけに、五十を越しているというにもかかわらず、白い肥肉《ふとりじし》の身体には、まだ少しの皺も見えなかった。
 刀《とう》を執る者は、虎松という九十に近い小吏だった。刑死人の死体の脂肪がにじみ出ているのではあるまいかと思われるような、赤黒い皮膚をした健《すこ》やかな老人であった。
 彼は、若い時から、腑分は幾度も手にかけ、数人を解いたことがあると自慢をした。
 究理のために勇み立っている六人ではあったけれども、その首のない、生白い無格好な死体を見た時に、皆は思わず顔を背けずにはおられなかった。目や鼻から受ける醜悪な感じで、六人の胸は閉された。が、良沢も、淳庵も、玄白も、必死な色を
前へ 次へ
全34ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング