理由は、少しも考えられなかった。死は、ただ時の問題として、彼の前に迫ってきた。彼も、どうにかして死を待ち受ける準備をしなければならなかった。
獄門台が、すっかりでき上って、その気味の悪い格好をずらりと地上に並べている時だった。燃ゆる赤熊《しゃぐま》の帽子を着た鳥取藩の士官が空地へ現れた。士官が、何か合図すると、大工たちは一つの獄門台を、三人で担ぎながら、寺の方へ近づいて来た。何をするのかと思っていると、寺の板塀の上に、獄門台の板が、ぬっと現れた。見ると、今までは気がつかなかったが、板のちょうど中央に、死首を突きさす釘が打ってあって、それが夕日の光を受けて、きらきらと光っているのだった。
それを見ると、宇多熊太郎は、縁側の板を踏み鳴らしながら怒った。
「ああ、あんないやなことをしやがる。あんな嫌がらせをする!」
が、怒り得るものは幸いだった。格之介は、それを見ると、恥も見栄もなく、身体ががたがたと震え出した。
五つの獄門台は、次々に塀に立てかけられた。真新しい材木が、古い板塀の上にまざまざと夕日の中に浮んでいる。
「ああ残念! 諸君、こんな汚らわしいものを見ていないで、障子を閉め
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