乱世
菊池寛
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)戊辰《ぼしん》正月
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)杉山|弘枝《ひろえ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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一
戊辰《ぼしん》正月、鳥羽伏見の戦で、幕軍が敗れたという知らせが、初めて桑名藩に達したのは、今日限《きょうぎ》りで松飾りが取れようという、七日の午後であった。
同心の宇多熊太郎という男が、戦場から道を迷って、笠置を越え、伊賀街道を故郷へと馳せ帰って来たのである。
一藩は、愕然とした。愕然としながらも、みんな爪先立てて後の知らせを待っていた。
公用方の築麻市左衛門が帰って来たのは、十日の午前であった。彼は、本国への使者として浪花表で本隊と離れ、大和伊賀をさ迷った末、故郷へ辿《たど》りついたのである。従って、彼は敗戦についてもっと詳しい知らせを持っていた。慶喜《よしのぶ》公が、藩主越中守、会津侯、その他わずか数名の近侍のものと、夜中潜かに軍艦に投じて、逃るるように江戸に下ったこと、幕軍をはじめ、会
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