見得以上の士は五人しかいない。彼はその五人の中で、家の格式がちょうど真ん中に位している。
「五人だけは、獄門になるのは分かった。が、後の八人はどうなるのだろう。斬首かな、それとも命だけは助かるかもしらん」
 足軽の中で、いちばん年輩の男が、そういった。彼はまだ一|縷《る》の望みを繋いでいた。
「助かる! たわけたことをいわれる! 今になって助かることを考える。積ってもみるがいい。五人の方々が梟首される以上、われわれが助かるはずがあるものか。武士たるものに、梟首は極刑じゃ。五人の方々を極刑にする以上、われわれを許すはずがない。打首だけなら、まだ仕合せじゃ。御覧なされい! 今にも、もう一台材木を引いた車が参るから」
 加藤小助が、地獄の獄卒ででもあるように、憎らしげにそういった。そのくせ、彼の顔色にも人間らしい色が残っていなかった。
 八人の軽輩の人たちは、加藤の言葉を不快に思った。が、その真実を認めないわけにはいかなかった。五人の上士たちが梟首にされる以上、残りの八人が、たとい梟首は免がれるにしても、打首だけは確かな事実だった。
 ことに、五人の中に入っている格之介が死を免がれ得るような
前へ 次へ
全35ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング