見物《みもの》ができたことを、欣んだのである。
「うむ! 家を建てるのかな。が、こんな田圃の中にぽっつり建てるわけはない。木組をしてからどこかへ運んで行くのだろう」
 彼は、心のうちでそんなことを考えながら、じっと大工たちの働くのを見ていた。
 が、それを見ているのは、格之介と木村清八とだけではなかった。どんなに、死が迫ってきている時でも、人間は退屈をするものである。十三人の中で、さっきから碁を囲んでいる築麻市左衛門と宇多熊太郎との外は、みんな外へ出て大工の働くのを見ていた。
 三人の大工は、材木を下してしまうと、銘々に手斧を使い始めていた。手斧が、木に食い入る音が澄み渡った早春の空気の中に、しばらくは、快く響いていた。
 が、そのうちに縁側に立っている人々は、単純な大工の動作に飽いて、いつとなく部屋の中へ入ってしまった。格之介と清八とだけは、まだ縁側を離れなかった。
 大工は、その材木で幾本となく高い柱をこさえていることは明らかだった。そして、一方の端を、土の中へでも打ち込むように尖らせているのだった。そのうちに、そうした丸い柱の数も格之介にはわかった。
 大工は十本の柱を、こさえ上
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