の翌日には、斬られているはずである。今まで、捨てておかれるはずはない。
 桑名藩を罰するというのなら、藩主の定敬《さだたか》公か、鳥羽伏見の戦いで全軍を指揮した森弥左衛門をでも斬るのが当然である。自分のような、五十石取の使番を。
 彼は、一生懸命にできるだけ有利に明るく考えようとした。が、同僚の誰彼が、遺書を認めているのを見ると、暗い穴の中へでも引きずり込まれるような、いやな心持がした。自分の明るい想像がめちゃめちゃに掻き乱されるのであった。
 午後のことである。格之介の前に立ちはだかって、じっと空地の方を見ていた徒士《かち》の木村清八が、独言《ひとりごと》のようにいった。
「ああ、あそこへ家が建つのだな。だんだん暖かくなるのだから、普請にはいい候《ころ》だな」
 木村の言葉をきく前から、格之介はそれに気がついていた。さっきから、材木を積んだ一台の車が、どこからともなく、空地へ引かれて来ている。その材木を、大工らしい男が三人、車から下している。
 ここに来てから、四日の間、ぼんやり床の間や天井や、庭や墓地などを見ていた格之介は、そうしたものに、かなり飽き飽きしていた。彼はこうして新しい
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