らと云って、別に貰った人達は、罪にならない。ありていに、云ったらどうだ」
越前は、長吉が金をやった相手に迷惑がかかるのを怖れてかくしているのだと思って、そう云った。
長吉は、苦笑して、
「怖れ入ります。仕事のみいり[#「みいり」に傍点]がよかったときとか、ばくち[#「ばくち」に傍点]で当りましたとき、つい身祝いの気持で、少しはバラまいたことがございます」
「それはどう云う気持でか?」
長吉は、しばらく考えていたが、
「わたくしめは、変な性分で、裕福そうなお人を見ると、つい盗んでやりたくなります。貧乏なお人を見ると、ついくれてやりたくなります。もって生れた性分で、理屈もわけもございません。のどがかわくと水がのみたくなるのと、同じでございます」
越前は、苦笑しながら、
「しかし、長吉、その方が今まで盗みとった金は、幸いいずれも十両をこえていないからよいが、もし盗みとった財布に十両はいって居れば、その命の呼《いき》はなかったぞ。それも、覚悟の前か」
長吉は、しばらく考えていたが、
「どうも仕方がございません」
と、平伏した。
「向後、盗みを止めようとは思わないか」
「思って居りま
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