れないと思う。わしは、もう一度長吉をゆるして見ようと思う」
 同心達も、越前のふかい考え方に賛成した。
 間もなく、判決の日が来た。
 越前の前に、引き出された長吉は、面目なげに、うつむいたままである。
 越前は、いつもの通り、しずかに云った。
「長吉面をあげい……」
「へえ、へえ、申しわけございません」
 と、一度あげた面をまた地に伏せてしまった。
「死罪は、覚悟しているだろうな」
 と、越前が云うと、
「御奉行さまのお言葉にそむきました上は、はりつけでも獄門でもどうぞ、御存分に……」
 長吉は、面をあげながら云った。
「そんなに盗みがしたいのか……」
「半月ばかりも辛抱しましたが、どうもダメでございました。へえ、へえ」
「うむ」
 越前は、じっと長吉の顔を見ていたが、彼の顔の隠徳の相は、いよいよハッキリと浮び上っているのである。
「ところが、長吉、もう一度お上の慈悲を受けることになったぞ……」
 と、云ったが、長吉は手をふるかわりに、縛られている身体を左右にふりながら、
「お奉行そりゃいけません。二度でも、三度でも同じことです。生かして置いて下さると、またやります。同じでございます
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