密集部隊であるから馬を入れる隙が無い。引返さんかとして居ると十時伝右衛門内田忠兵衛と名乗って馬を駆け寄せ、槍をもって突崩し五六騎を切って落したとある。名乗った処で相手にはわからないであろうが、やっぱり習慣で名乗ったらしい。兎に角伝右衛門は必死だから、その風《ふう》を見て勢いを得た部下は続いて突入った。明軍は四倍の大勢だから伝右衛門の部隊は忽ちに真中に取囲まれて仕舞った。伝右衛門は総勢を一所に集めて、「敵を間近に引寄せて置いて急に後方に血路を開き、中備の隊まで引取るべし。然る時は敵勢追って来るであろう。我部隊中備と合したならば直ちに取って返し一文字に突破すべし。かくすれば此敵安く追い払う事が出来るぞ」と下知して戦ったが、ついに手負|数多《あまた》で討死した。自分が声明した通りであった。部隊の死傷百余人である。中備小野和泉入替って戦うたが易く破れる気色もない。反《かえ》ってまた危く見えた処に宗茂二千の兵一度に鬨《とき》を挙げて押し寄せた。さしもの明軍も少しく退いたので、宗茂八百を後に固め、あとの軍勢は追撃に移らせたが、此時には既に明軍の後属部隊も到着したから戦は簡単には行かない。池部竜右衛
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