が如くに見せかけた後、突入したから伏勢は追い出されて散々である。宗茂この報を受けるや直ちに進登を命じた。この朝寒風が強い。宗茂|粥《かゆ》を作って衆と共に喫し、酒を大釜に温《あたた》めて飲みもって士気を鼓舞したと云う。前備小野和泉が出登しようとして居る処へ馳《か》け込んだのは中備の将十時伝右衛門である。伝右衛門和泉に向って前備を譲らんことを乞うた。和泉は驚き怒り、軍法をもって許さない。伝右衛門は和泉の鎧の袖にすがって、今日の戦は日本|高麗《こま》分目の軍と思う。某は真先懸けて討死しよう。殊死して突入するならば敵陣乱れるに相違あるまい。其時に各々は攻め入って功を収められよ。先懸けを乞うのは八幡大菩薩私の軍功を樹《た》てる為ではない。こう云って涙を流した。和泉感動して、ついに前軍と中軍と入れ代った。霧が深く展望がきかないままに、明の先鋒査大受は二千の騎兵を率いて恵陰嶺《けいいんれい》を過ぎて南下したが、十時が五百の部隊、果然夜の明けた七時頃に遭遇した。弥勒院《みろくいん》の野には忽ち人馬の馳せかう音、豆を煎《い》る銃声、剣戟の響が天地をゆるがした。天野源右衛門三十騎計りで馳せ向うが、明軍は
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