相談して、安国寺|恵瓊《えけい》を開城へ遣して、小早川隆景に、京城へ退くよう勧説《かんぜい》した。隆景曰く、「諸城を築いて連珠の如くに守って居るのは、今日の様な事があるが為である。此地は険要であるから、某《それがし》快く一戦して明軍と雌雄を決する所存である。渡海以来の某は日夜戦陣に屍を暴《さら》すをもって本意として来た。生きて日本へ帰る事など曾《かつ》て思った事もない。老骨一つ、よし此処に討死しても日本の恥にもなるまい」と頑張って退く事を肯《がえん》じない。三奉行の一人大谷|刑部少輔《ぎょうぶしょうゆう》吉継、京城より馳せつけて隆景に説いた。「貴殿の御武勇の程は皆々存じては居るが、今度は主力を京城に集結して決戦しようと考えて居るのである。且つはこの開城京城間の臨津江《りんしんこう》が春来と共に氷が解ける事でもあらば、貴殿の進退は困難となろう」と説得して、ついに開城を中心として四方の諸城の軍勢も、次々に退却して京城に集った。集った諸軍勢も悉《ことごと》く城内に入ったが、小早川隆景、及び立花宗茂等の諸軍だけは城内に入らず、西大門外に陣を布き、迎恩門を先陣として警戒怠りない。城中の諸将は隆景
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