に退いた。李如松楊元等は普通門より、李如柏は合毬門より、張世爵は七星門より外城に進入した。此時牡丹台を行長の士小西|末郷《すえさと》、鎮信の士松浦源次郎の同勢固めて居たが、源次郎は逃れ難くなったので、切腹して果てた。此夜、行長は諸将と会して進退を議したが、既に兵糧庫も焼れて居るし、鳳山《ほうざん》からの援軍も来ない上は、一度京城へ退いて再挙するに如くはなしと決して、潜《ひそか》に城を出で大同江の氷を渡って京城へと落ち延びた。寒気厳しい最中の退却であるから惨憺たる有様であった。鳳山の大友|吉統《よしむね》は、平壌囲まると聞くや仰天して、行長より一足お先に京城へ逃げ込んだ。太閤秀吉聞いて、日本の武威を汚すものとして、吉統の領国をとり上げた。
 平壌に於ける敗戦までは、まだまだ積極的な態度であったが、これ以後の日本軍は処々の戦勝あるとは云え、大局に於て退軍の兆が現れるようになった。だが、その間に在って、碧蹄館《へきていかん》の血戦は、退《ひ》き口の一戦として、明軍をして顔色なからしめたのである。

       碧蹄館血戦之事

 平壌敗れたりとの報が、京城に達したので、宇喜多秀家は三奉行と
前へ 次へ
全29ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング