はおらんかの?
母 へえ! (吸いつけられるように玄関へ行く、以下声ばかり聞える)
男の声 おたかか!
母の声 まあ! お前さんか、えろう! 変ったのう。
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(二人とも涙ぐみたる声を出している)
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男の声 まあ! 丈夫《たっしゃ》で何よりじゃ。子供たちは大きくなったやろうな。
母の声 大きゅうなったとも、もう皆立派な大人じゃ。上ってお見まあせ。
男の声 上ってもええかい。
母の声 ええとも。
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(二十年振りに帰れる父宗太郎、憔悴したる有様にて老いたる妻に導かれて室に入り来る、新二郎とおたねとは目をしばたたきながら、父の姿をしみじみ見つめていたが)
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新二郎 お父さんですか、僕が新二郎です。
父 立派な男になったな、お前に別れた時はまだ碌《ろく》に立てもしなかったが……。
おたね お父さん、私がたねです。
父 女の子ということはきいていたが、ええ器量じゃなあ。
母 まあ、お前さん、何から話し
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