父帰る
菊池寛
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)卓子台《ちゃぶだい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎晩|家《うち》の前で立って
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから4字下げ]
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人物
黒田賢一郎 二十八歳
その弟 新二郎 二十三歳
その妹 おたね 二十歳
彼らの母 おたか 五十一歳
彼らの父 宗太郎
時
明治四十年頃
所
南海道の海岸にある小都会
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情景 中流階級のつつましやかな家、六畳の間、正面に箪笥があって、その上に目覚時計が置いてある。前に長火鉢あり、薬缶から湯気が立っている。卓子台《ちゃぶだい》が出してある。賢一郎、役所から帰って和服に着替えたばかりと見え、寛《くつろ》いで新聞を読んでいる。母のおたかが縫物をしている。午後七時に近く戸外は闇《くら》し、十月の初め。
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賢一郎 おたあさん、
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