も貰わないかん。それで片が付くんやけに。お父さんが出奔《しゅっぽん》した時には三人の子供を抱えてどうしようと思ったもんやが……。
賢一郎 もう昔のことをいうても仕方がないんやけえに。
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(表の格子開き新二郎帰って来る。小学教師にして眉目秀れたる青年なり)
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新二郎 ただいま。
母 やあおかえり。
賢一郎 大変遅かったじゃないか。
新二郎 今日は調べものがたくさんあって、閉口してしもうた。ああ肩が凝った。
母 さっきから御飯にしようと思って待っとったんや。
賢一郎 御飯がすんだら風呂へ行って来るとええ。
新二郎 (和服に着替えながら)おたあさん、たねは。
母 仕立物を持って行っとんや。
新二郎 (和服になって寛《くつろ》ぎながら)兄さん! 今日僕は不思議な噂をきいたんですがね。杉田校長が古新町で、家《うち》のお父さんによく似た人に会ったというんですがね。
母と兄 うーむ。
新二郎 杉田さんが、古新町の旅籠屋《はたごや》が並んどる所を通っとると、前に行く六十ばかりの老人がある。よく見ると
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