ことはできるわ。えろう邪魔したな。(悄然と行かんとす)
新二郎 まあ、お待ちまあせ。兄さんが厭だというのなら僕がどうにかしてあげます。兄さんだって親子ですから、今に機嫌の直ることがあるでしょう。お待ちまあせ。僕がどななことをしても養うて上げますから。
賢一郎 新二郎! お前はその人になんぞ世話になったことがあるのか。俺はまだその人から拳骨の一つや二つは貰ったことがあるが、お前は塵一つだって貰ってはいないぞ。お前の小学校の月謝は誰が出したのだ。お前は誰の養育を受けたのじゃ。お前の学校の月謝は、兄さんがしがない給仕の月給から払ってやったのを忘れたのか。お前や、たねのほんとうの父親《てておや》は俺だ。父親《てておや》の役目をしたのは俺じゃ。その人を世話したければするがええ。その代り兄さんはお前と口は利かないぞ。
新二郎 しかし……。
賢一郎 不服があれば、その人と一緒に出て行くがええ。
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(女二人とも泣きつづけている。新二郎黙す)
[#ここで字下げ終わり]
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賢一郎 俺は父親《てておや》がないために苦しんだけに、弟や妹にその苦
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