ことがいえるな。見も知らない他人がひょっくり入ってきて、俺たちの親じゃというたからとて、すぐに父に対する感情を持つことができるんか。
新二郎 しかし兄さん、肉親の子として、親がどうあろうとも養うて行く……。
賢一郎 義務があるというのか。自分でさんざん面白いことをしておいて、年が寄って動けなくなったというて帰ってくる。俺はお前がなんといっても父親《てておや》はない。
父 (憤然として物をいう、しかしそれは飾った怒りでなんの力も伴っていない)賢一郎! お前は生みの親に対してよくそんな口が利けるのう。
賢一郎 生みの親というのですか。あなたが生んだという賢一郎は二十年も前に築港で死んでいる。あなたは二十年前に父としての権利を自分で捨てている。今のわしは自分で築きあげたわしじゃ。わしは誰にだって、世話になっておらん。
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(すべて無言、おたかとおたねのすすりなきの声がきこえるばかり)
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父 ええわ、出て行く。俺だって二万や三万の金は取り扱うてきた男じゃ。どなに落ちぶれたかというて、食うくらいな
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