顫《ふる》えながら、
「一銭のです、一銭のです。」と、泣き声で言いました。すると、お巡査さんは、
「太い奴《やつ》だ。これは二銭の苞じゃないか。この間中から、このお婆さんが、納豆を盗まれる盗まれると、こぼしていたが、お前達が、こんな悪戯《いたずら》をやっていたのか。さあ、交番へ来い。」と、言いながら、吉公を引きずって行こうとしました。吉公は、おいおい泣き出しました。私達も、吉公と同じ悪いことをしているのですから、みんな蒼くなって、ブルブル顫えていました。すると、吉公はお巡査さんに引きずられながら、「私一人じゃありません。みんなもしたのです。私一人じゃありません。」と言ってしまいました。するとお巡査《まわり》さんは、恐《こわ》い眼で、私達を睨《にら》みながら、
「じゃ、みんなの名前を言ってご覧。」と言いました。そう言われると、私達はもう堪らなくなって、
「わあッ。」と、一ぺんに泣き出しました。
 すると、傍《そば》にじっと立っていた納豆売のお婆さんです。私達が、一緒に泣き出す声を聞くと、急に盲目《めくら》の眼を、ショボショボさせたかと思うと、お巡査さんの方へ、手さぐりに寄りながら、
「も
前へ 次へ
全10ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング