一銭受け取ると、
「はい、有難うございます」と、言いながら、又ヨボヨボ向うへ行ってしまいました。
吉公は、お婆さんから取った二銭の苞を、私達に見せびらかしながら、
「どうだい、一銭で二銭の苞を、まき上げてやったよ。」と、自分の悪戯を自慢するように言いました。一銭のお金で、二銭の物を取るのは、悪戯というよりも、もっといけない悪いことですが、その頃私達は、まだ何の考《かんがえ》もない子供でしたから、そんなに悪いことだとも思わず、吉公がうまく二銭の苞を、取ったことを、何かエライことをでもしたように、感心しました。
「うまくやったね。お婆さん何も知らないで、ハイ有難うございます、と言ったねえ、ハハハハ。」と、私が言いますと、みんなも声を揃《そろ》えて笑いました。
が、吉公は、お婆さんから、うまく二銭の納豆をまき上げたといっても、何も学校へ持って行って、喰《た》べるというのではありません。学校へ行くと、吉公は私達に、納豆を一|掴《つか》みずつ渡しながら、
「さあ、これから、戦《いくさ》ごっこをするのだ。この納豆が鉄砲丸《てっぽうだま》だよ。これのぶっつけこをするんだ。」と、言いました。私達は
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