われる豆腐屋の吉公《きちこう》という子が、向うからヨボヨボと歩いて来る、納豆売りのお婆さんの姿を見ると、私達の方を向いて、
「おい、俺《おれ》がお婆さんに、いたずらをするから、見ておいで。」と言うのです。
 私達はよせばよいのにと思いましたが、何しろ、十一二という悪戯盛《いたずらざか》りですから、一体吉公がどんな悪戯をするのか見ていたいという心持もあって、だまって吉公の後《あと》からついて行きました。
 すると吉公はお婆さんの傍《そば》へつかつかと進んで行って、
「おい、お婆さん、納豆をおくれ。」と言いました。すると、お婆さんは口をもぐもぐさせながら、
「一銭の苞《つと》ですか、二銭の苞ですか。」と言いました。
「一銭のだい!」と吉公は叱《しか》るように言いました。お婆さんがおずおずと一銭の藁苞《わらづと》を出しかけると、吉公は、
「それは嫌《いや》だ。そっちの方をおくれ。」と、言いながら、いきなりお婆さんの手の中にある二銭の苞を、引ったくってしまいました。お婆さんは、可哀《かあい》そうに、眼が見えないものですから、一銭の苞の代りに、二銭の苞を取られたことに、気が付きません。吉公から、
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