りあらあ、みんな十二両ずつくれてやって、残ったのは俺がもらっていくんだ。めいめいに当を考えて落ちてくれ! いいかずいぶん身体に気をつけて、たっしゃでいてくれ! 忠次がどこかで捕まって江戸送りにでもなったと聞いたら、線香の一本でも上げてくれ……あはははは……(喜蔵に)おいその金をみんなに分けてやれ!
喜蔵 そりゃ親分! 悪い了簡だろうぜ。一体、俺たちが妻子|眷族《けんぞく》を捨ててここまでお前さんについて来たのは何のためだと思うんだ。みんな、お前さんの身の上を気づかって、お前さんの落着く所を見届けたい一心からじゃねえか。
浅太郎 そうだとも。いくら大戸の御番所をこして、もうこれから信州までは大丈夫といったところで、お前さんばかりを手放すことは、できるものじゃねえよ。
嘉助 ほんとうだ。もっとも、こう物騒な野郎ばかりが、つながって歩けねえのは道理《ことわり》なのだから、お前さんがこいつと思う野郎を名指しておくんなせえ。何も親分子分の間で、遠慮することなんかありゃしねえ。お前さんの大事な場合だ。恨みつらみをいうようなけちな野郎は一人だってありゃしねえ。なあ! 兄弟。
多勢 そうだとも。そうだ
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