に置いてやれよ。
吉蔵 かしこまりました。
(吉蔵かけさる)
喜蔵 飯ができるまで、ゆっくり休めるというもんだ。
(みんなしばらく無言)
九郎助 飯が来るまで、一寝入りしようかな。
弥助 そいつはいい考えだ。
嘉助 おいらも一寝入りしようかな。
忠次 おい! ちょっと待ってくれ!
嘉助 何だ親分、改まって?
忠次 おい! みんな。
(忠次が緊張しているので。みんな居ずまいを正す)
忠次 おい! みんな。ちょっと耳をかしてもらいてえのだが、俺《おいら》これから信州へ一人で落ちて行こうと思うのだ。お前たちを連れて行きてえのは山々だが、お役人を叩き斬って天下のお関所を破った俺たちが、お天道さまの下を十人二十人つながって歩くことは、許されねえことだ。もっとも、二、三人は一緒に行ってもらいてえとも思うのだが、今日が日まで、同じ辛苦をしたお前たちみんなの中から、汝に行け、われは来るなという区別はつけたくねえのだ。連れて行くからには一人残らず、みんな連れて行きてえのだ、別れるからには恨みっこのないように、みんな一様に別れてしまいてえのだ。さあ、ここに使い残りの金が百五十両ばか
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