、四人は最初みんなが来た方へ引っ返す。後に、九郎助と弥助だけがのこる。九郎助の顔は、凄いほど、蒼い。黙然として考えている)
弥助 おい兄い! お前は、どの方角へ行くんだ。
九郎助 うるせえや、今考えているというに。
弥助 おらあ、よっぽど草津から越後へ出ようと思ったが、よく考えてみると、熊谷在に伯父がいるのだ。少しは、熊谷はあぶねえかと思うが、故郷へ帰る足溜りにはもってこいだ。それで俺武州の方へ出るつもりだが、お前はどうする気だ。
九郎助 (黙して答えず)……。
弥助 お前、よっぽど入れ札が気に入らなかったのだな。もっともだ、俺も今日の入れ札は、最初からいやだった。親分も親分だ! 餓鬼の時から、一緒に育ったお前を捨てて行くという法はねえや、浅や嘉助は、いくら腕っぷしが強くってもお前に比べれば、ほんの小僧っ子だ。また、たとい入れ札をするにしたところで、野郎たちがお前を入れねえという法はありゃしねえ。十一人の中でお前の名を書いたのは、この弥助一人だと思うと、おらああいつらの心根が全く分からねえや。
九郎助 (憤然として)この野郎、手前ほんとうに書いたのか。
弥助 書いたとも、俺よりほかにお
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