人を引き止めて他の多くに暇をやることが、どうしても気がすすまなかった。皆一様に、自分のために、一命を捨ててかかっている人々の間に、自分が甲乙を付けることは、どうしても出来なかった。剛愎《ごうふく》な忠次も、打ち続く艱難《かんなん》で、少しは気が弱くなっている故《せい》もあったのだろう。別れるのなら、いっそ皆と同じように、別れようと思った。
彼は、そう決心すると、
「おい! みんな!」と、周囲に散《ちら》かっている乾児達を呼んだ。烈しい叱《しか》り付けるような声だった。喧嘩《けんか》の時などにも、叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]《しった》する忠次の声だけは、狂奔している乾児達の耳にもよく徹した。
草の上に、蹲《うずく》まったり、寝ころんだり、銘々思い思いの休息を取っていた乾児達は、忠次の一|喝《かつ》でみんな起き直った。数日来の烈しい疲労で、とろとろ眠りかけているものさえあった。
「おい! みんな」
忠次は、改めて呼び直した。『壺皿見透《つぼざらみとお》し』と、若い時|綽名《あだな》を付けられていた、忠次の大きい眼がギロリと動いた。
「みんな! 一寸《ちょっと》耳を貸し
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