町も、彼が一月前に代官を斬った岩鼻の町もあった。
国越《くにごえ》をしようとする忠次の心には、さすがに淡い哀愁が、感ぜられていた。が、それよりも、現在一番彼の心を苦しめていることは、乾児の始末だった。赤城へ籠った当座は、五十人に近かった乾児が、日数が経《た》つに連れ、二人三人|潜《ひそ》かに、山を降《くだ》って逃げた。捕方の総攻めを喰《く》ったときは、二十七人しか残っていなかった。それが、五六人は召捕られ、七八人は何処ともなく落ち延びて、今残っている十一人は、忠次のためには、水火をも辞さない金鉄の人々だった。国を売って、知らぬ他国へ走る以上、この先、あまりいい芽も出そうでない忠次のために、一緒に関所を破って、命を投げ出してくれた人々だった。が、代官を斬った上に、関所を破った忠次として、十人余の乾児を連れて、他国を横行することは出来なかった。人目に触れない裡に、乾児の始末を付けてしまいたかった。が、みんなと別れて、一人ぎりになってしまうことも、いろいろな点で不便だった。自分の目算通《もくさんどおり》に、信州|追分《おいわけ》の今井小藤太の家に、ころがり込むにしたところが、国定村の忠次と
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