談しようとするらしい相手の、図々しい態度を見ると、彼はその得手勝手が、叩《たた》き切ってやりたいほど、癪《しゃく》に障《さわ》った。
「俺、よっぽど草津から越後へ出ようと思ったが、よく考えてみると、熊谷《くまがや》在《ざい》に伯父が居るのだ、少しは、熊谷は危険かも知れねえが、故郷へかえる足溜《あしだま》りには持って来いだ。それで俺も武州《ぶしゅう》の方へ出るから、途中まで付き合ってくれねえか」
九郎助は、返事をする事さえ厭だった。黙ってすたこら[#「すたこら」に傍点]歩いていた。
弥助は、九郎助が機嫌が悪いのを知ると、傍《そば》へ寄った。
「俺あ、今日の入れ札には、最初《はな》から厭だった。親分も親分だ! 餓鬼の時から一緒に育ったお前を連れて行くと云わねえ法はねえ。浅や喜蔵は、いくら腕節や、才覚があっても、云わば、お前に比べればホンの小僧っ子だ。たとい、入れ札にするにしたところが、野郎達が、お前を入れねえと云うことはありゃしねえ。十一人の中でお前の名をかいたのは、この弥助一人だと思うと、俺あ彼奴《あいつ》等の心根《こころね》が、全くわからねえや」
黙って聞いた九郎助は、火のような
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