嘘じゃねえぞ!」と、付け足しながら、その紙を右の手で高く上げて差し示した。
「その次ぎが又、喜蔵だ!」
 喜蔵は得意げに、又紙札を高く差上げた。
「嘉助が一枚!」
 第三の名前が出た。忠次は、心の中で、私《ひそか》に選んでいる三人が、入札の表に現われて来るのが、嬉しかった。乾児達が自分の心持を、察していてくれるのが嬉しかった。
「何だ! くろすけ[#「くろすけ」に傍点]。九郎助だな。九郎助が一枚!」
 喜蔵は、声高く叫んだ。九郎助は、顔から火が出るように思った。生れて初めて感ずるような羞恥《しゅうち》と、不安と、悔恨とで、胸の裡《うち》が掻《か》きむしられるようだ。自分の手蹟《しゅせき》を、喜蔵が見覚えては、いはしないかと思うと、九郎助は立っても坐っても居られないような気持だった。が、喜蔵は九郎助の札には、こだわっていなかった。
「浅が三枚だ! その次は、喜蔵が三枚だ!」
 喜蔵は大声に叫びつづけた。札が次ぎ次ぎに読み上げられて、喜蔵の手にたった一枚残ったとき、浅が四枚で、喜蔵が四枚だった。嘉助と九郎助とが、各自一枚ずつだった。
 九郎助は、心の裡で懸命に弥助の札が出るのを待っていた。
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