立つ乾児を、選ぼうと云う肚《はら》が解ると、みんなは異議なく入れ札に賛成した。
 喜蔵が矢立《やたて》を持っていた。忠次が懐《ふところ》から、鼻紙の半紙を取り出した。それを喜蔵が受取ると、長脇差を抜いて、手際《てぎわ》よくそれを小さく切り分けた。そうして、一片《ひときれ》ずつみんなに配った。
 先刻《さっき》からの経路を、一番|厭《いや》な心で見ていたのは稲荷《いなり》の九郎助《くろすけ》だった。彼は年輩から云っても、忠次の身内では、第一の兄分でなければならなかった。が、忠次からも、乾児からも、そのようには扱われていなかった。去年、大前田の一家と一寸した出入《でいり》のあった時、彼は喧嘩場から、不覚にも大前田の身内の者に、引っ担《かつ》がれた。それ以来、彼は多年|培《つちか》っていた自分の声望がめっきり[#「めっきり」に傍点]落ちたのを知った。自分から云えば、遙《はる》かに後輩の浅太郎や喜蔵に段々|凌《しの》がれて来た事を、感じていた。そればかりでなく、十年前までは、兄弟同様に賭場《とば》から賭場を、一緒に漂浪して歩いた忠次までが、何時となく、自分を軽《かろ》んじている事を知った。皆は
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