表面こそ『阿兄《あにい》! 阿兄!』と立てているものの、心の裡では、自分を重んじていないことが、ありありと感ぜられた。
 入れ札と云う声を聴いたとき、九郎助は悪いことになったなあと思った。今まで、表面だけはともかくも保って来た自分の位置が、露骨に崩《くず》されるのだと思うと、彼は厭な気がした。十一人居る乾児の中で自分に入れてくれそうな人間を考えてみた。が、それは弥助の他《ほか》には思い当らなかった。弥助も九郎助と同様に、古い顔であって、後輩の浅太郎や、喜蔵などが、グングン頭を擡《もた》げて来るのを、常から快からず思っているから、こうした場合には、きっと自分に入れてくれるだろうと思った。が、弥助だけは自分に入れてくれるとしても、弥助の一枚だけで、三人の中に這入《はい》ることは考えられなかった。浅太郎には四枚入るだろうと思った。喜蔵に三枚入るとして、十一枚の中、後へ四枚残る。その中、自分の一枚をのけると三枚残る。もし、その中、二枚が、自分に入れられていれば、三人の中に加わることは出来るかも知れないと思った。が、弥助の他に、自分に入れてくれそうな人は、どう考えても当がなかった。ひょっと[#「
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