け》た事をぬかすねえ」
 そう云われると、忍松は一言もなかった。半白《はんぱく》の頭を、テレ隠しに掻《か》いていた。
 そうしているうちに、半時ばかり経った。日光山らしい方角に出た朝日が、もう余程さし登っていた。忠次は、黙々として、みんなの云う事を聴いていた。二三人連れて行くとしたら、彼は籤引では連れて行きたくなかった。やっぱり、信頼の出来る乾児を自ら選びたかった。彼は不図《ふと》一策を思い付いた。それは、彼が自ら選ぶ事なくして、最も優秀な乾児を選み得《う》る方法だった。
「お前達の様に、そうザワザワ騒いでいちゃ、何時《いつ》が来たって、果てしがありゃしねえ。俺一人を手離すのが不安心だと云うのなら、お前達の間で入《い》れ札《ふだ》をしてみちゃ、どうだい。札数の多い者から、三人だけ連れて行こうじゃねえか。こりゃ一番、怨みっこがなくって、いいだろうぜ」
 忠次の言葉が終るか終らないかに、
「そいつぁ思い付きだ」乾児のうちで一番人望のある喜蔵が賛成した。
「そいつぁ趣向だ」大間々の浅太郎も直ぐ賛成した。
 心の裡で、籤引を望んでいる者も数人あった。が、忠次の、怨みっこの無いように、しかも役に
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