っと押してやりました』
『それはどっちの手で』
『右の手でやりました』
『そのとき、左の手はどうしていたのだ。まさか、左の手を上へぼんやり上げてはいはすまいね。その時の姿勢は、どうだった』
『じつは左の手で女の首を抱えてやりました』
『なるほど。それで、よう物が分かった。それで、いうことに無理がない。だから、早くからいえばよかったのだ。それで、そのことには、少しも無理がない。よう分かった。が、もう一つ分からんことがある。それも一つ考えずに、あっさりいうたら、どうだ。そりゃ、こうこういうわけだったと、あっさりいうたらどうだ。無理のないよう分かるようにいったらどうだ。そら、お前がどうしてこういうことをやったかをついでにいってくれ』
『それは、さっき申した通りです』
『うむ、さっきどんなことをいったかな。もう一遍いってみてくれんか。さっきからたくさんきいたから、勘違いをしておるかも知れん。もう一度、くわしくいってみてくれ』
こういうのは、犯人には事実を自白する機会を作ってやるためです。
『それは、兵に行く前に金でも溜めて、両親を欣ばせようと思っていましたのが、借金はできますし、それにあの女
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