切なときにウソを吐くようじゃ、お前はもう何の取りえもない、男子のなかの屑じゃないか。さあ、死にたいなどと、そんな気の弱いことをいわないで、潔く本当のことをいったらどうだ。短刀の柄の端を、少し持ち添えてやったとか、一緒に転ぶときに、少し押してやったとか。本当のことをいってみい!』
『夢中で、はっきりとは覚えていませんが、一緒に倒れるときに、私の手が喉のところへ行ったかも知れません』
 若者は、とうとう本当のことを、喋《しゃべ》り始めたのです。僕の面に、得意な微笑が浮ぶのをどうすることもできませんでした。
『なるほどな、が、お前も自分でやったことが分からんはずはないだろう、いや、お前はよう分かったつもりでいっているのだろうが、普通に考えると、どうもよく分からん。お前の肚《はら》になってみれば、よく分かるが、普通に分かるようにいってみんか。が、嘘をいえというのじゃないぞ』
 若者は、しばらく無言でしたが、ようやく決心したように、
『よう考えてみると、あれが自分で突き刺して、非常に苦しがっていたものですから、あれの上から、のっかかって、短刀の柄の残っているところを、持ってやりました。一緒にきゅ
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