か、誰が考えても分かることじゃないか』
こういって来ると、相手の若者は、返事に窮したように、黙ってしまったのでした。僕は、もう一息だと思いました。
『何も、こんなことは、別にお前にきかなくても、初めからちゃんと分かっていることなんだ。掛りの医者を連れて来ているのだから、大抵のことは、お前にきかなくても分かってるのだ。が、お前が本当のことをいう男であるか、お前に何か取りえがあるかどうかと思って、きいているのだぞ』
こういい詰めると、若者は苦しそうに、身を悶えていましたが、
『ああお役人さま。私は死にたいのです。どうぞ、私を殺して下さい!』
彼は悲鳴のように叫ぶと、切なそうに、啜《すす》り泣きを始めていました。
僕は若者を叱りつけるようにいいました。
『そんな気の弱いことでどうする。今が、お前の一生の中で、いちばん大事なときじゃないか。今までの間違っていたことを改めて、生れ変った人間として立派にやっていく、大事な潮時じゃないか、お前が、やったことが悪いとしたならば、死んだ人に対しても、社会に対しても、申しわけとして、相当な勤めを、立派に果して、生れ変って来るときじゃないか。こんな大
前へ
次へ
全31ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング