かね。女が可哀そうじゃないかね。どうせ二人で死んで行くのだもの。女が苦しんでいれば、お前も手をとって力を添えてやるのが人情じゃないか。それが、人間として美しいことじゃないかね。いいか悪いかは別問題として、そうあるべきところじゃないかね』
先刻、女の死体を一目見たときに、僕は女が、どちらかといえば、呼吸器でもが悪いように瘠せた女で、男が陳述するような、勇気がある女とは、どうしても思えなかったのです。僕は、自殺幇助の事実があることを最初から信じていたのです。それに、先刻ちょっと見たときにも、傷口が一刀のもとに見事に突かれていることに気が付いていたのです。
『どうだい。俺には、あの女に、お前がいうほど勇気があるとは、どうしても思えないのだがね。そこが、不思議で堪らないのだがね。どうだい。本当のことをあっさりといってくれんかな。実はお前が、突いてやったのだろう』
若者は明らかに狼狽しながら、
『いえいえ、滅相な滅相な』と打ち消しました。
『じゃ、きくがね。あの女の喉のところに掻き傷があるが、あれはどうしたんだ』
若者は顔が赤くなったかと思うと、黙っていました。
『お前が、一緒に突いてやっ
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