の暴政を綿々として訴え、信仰の変え難きを告げ、
「みな極楽安養すべきこと、何ぞ疑ひこれあるべく候|哉《や》、片時も今生の暇、希《こいねが》ふばかりに候」と結んで居る。
 智慧伊豆の謀略をもってしても、今は決戦する丈の道しか残されて居なかった。
 十日頃、城中に於て度々太鼓が鳴り響いて舞踊をして歌を歌う者がある。寄手耳を傾けて聴いてみると次の様な文句である。
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かゝれ、かゝれ、寄衆《よせしゅう》もつこてかゝれ、寄衆鉄砲の玉のあらん限りは、
とんとと鳴るは、寄衆の大筒、ならすとみしらしよ、こちの小筒で、
有りがたの利生《りしょう》や、伴天連様の御影で、寄衆の頭を、すんと切利支丹。
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 十一日、寄手は、地下より角道を掘って城際《しろぎわ》に到ろうと試みると、城の方でも地下道を掘って来る始末である。日暮れた頃、城中三の丸辺から火が挙がるのを寄手見て失火であろうと推測したが、豈《あに》計らんや生木生草を焼いて、寄手の地下道をくすべて居たのであった。
 其後、この地下道へ、糞尿を流し込んで、寄手をして辟易《へきえき》せしめたりした。楠《くすのき》流の防
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