、どうにか致しますわ。」
「それは、一番良いことのようで、一番悪いことですよ。」
「なぜですの。」
「それは、貴女独りに、あらゆる負担を転嫁することですもの。」
「だって、私が自発的にやるんですから、いいじゃありませんか。私、舞台に出てみて、初めて自分の生きる道が分ったような気がしますの。」
「なるほど、貴女は情熱家だ。そうした気持で『彼女』をやるんだから、成功するはずですな。しかし、貴女にムリをさせて、僕達が傍観するわけには行きませんからな。」
「先生。大丈夫だと申し上げましたのに。私、母に話せばどうにかなると思いますの。」
 学問はあっても少うしお調子ものの圭子は、頼まれもせぬのに、つまらない役を買って出ているのだった。
「そうですか。それでは、一つお願いするかな、これこの通り……」小池は、卓子《テーブル》の上に、蛙が両手を張ったような形に、両肘を延ばすと、頭をつけて低頭してみせた。
「いやですわ、先生。そんなことをなすって、おほほほほほ。」
 小池はなかなか頭を上げなかった。圭子は笑いながら手を延ばすと、小池の頭を両手ではさんで持ち上げた。

        三

 圭子の母は、
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