云いながら、青年は取り敢《あえ》ず、新子の手を曳《ひ》いて、彼女が落ちかかっていたくぼ[#「くぼ」に傍点]地から、彼女を小径の方へ連れ出した。
「何でもございませんの、私、ぼんやりしておりましたので、随分驚いてしまって……痛っ……」シャンとしようとすると、足首が痛かったので、彼女は思わず声を立てて、青年の肩にすがった。
「足をくじかれたのでしょうか。」
「いいえ。大丈夫です。どうぞ、いらっして下さいませ。」新子は、すぐにも自分の痛い足を見たいのに、青年がいるので、裾を揚げるわけにも行かず、夫人のお客様などの世話になる気には、とうていなれず、ただ早く立ち去ってくれればと思っていた。
「手から血が出ていますよ。」と、云われて、新子は初めて、手首の痛みにも気がついた。白樺の幹ですりむいた傷らしかった。
彼女の白い手の甲に、うっすらと血が滲んでいた。
「無茶ですよ。あの人は、……乱暴に飛ばせるんだもの……」夫人のことらしかった。新子は黙って、そっと手首の傷を叩いた。
「貴女、僕の肩へすがって、いらっしゃいませんか。もし、足をくじいているとすればなるべく動かさない方がいいですから。」新子は、ハ
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